直木賞作家 池井戸氏に聞く(後編)

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専門紙は情報のフィルター
  バンカーよ、仕事の殻を破れ

※以下は「ニッキン」2020年4月3日号12面に掲載したインタビューの詳細(後編)です。


直木賞作家の池井戸潤氏

宮 岸 インターネットの普及で情報が非常に簡便に取れる時代です。そういう中で新聞の有用性についてどう思いますか。

池井戸 新聞はモバイルで読んでいますが、また紙に変えようかと思っています。紙とは違い、画面が小さくて読みにくいのが電子版の弱みでしょうか。日本経済新聞はスマートフォンのアプリで見る場合、紙の新聞をそのまま縮小したプレビュー版と、それからヤフーのように画一的に記事が流れる日経電子版がありますけど、僕は後者では見ないですね。紙面そのままを見ていて、「何に注目しているのか」にそもそも興味がある。そのように読まないと、読む意味があまりない。自分が気になるテーマを調べるだけなら、ネット検索をすればいいわけですから。ヤフー式は、軽重が全く関係なく記事が並んでいます。そうではなくて何が重要な情報で何がそうではないかが、きっちり紙面で分かるわけです。そこに新聞各社の見識や価値観が表れ、ここが新聞の大事なところだと思います。そこで読者が納得できる紙面になっているかどうか。でも、最近は、見出ししか読まれないことが結構ありますよね。私に関する記事でも、見出しだけ読んで誤解している読者がいます。見出しだけではなく、本文も読んでもらうことにも工夫が必要な気がします。

宮 岸 それはネット記事においても。

池井戸 ネット記事の下に読者がコメントを書く欄がありますが、気になる記事があると、読者がどう捉えたかをリサーチしています。ネット記事の見出しは、ものすごく刺激的なものがありますよね。本文を読むとそうでもないのに、アクセス数を稼ごうとしているのでしょうが。それだけ時間がない中でチェックしている人が多いのかも知れませんが。新聞はそんないい加減なことはしないと思いますが、だからこそ、見出しの付け方に工夫が必要になると思います。これは読むべき記事だと読者に思わせるような見出しですね。まあ読者サイドも、良い記事とそうでない記事の見極めには、ある程度の経験が必要でしょうが。

宮 岸 新聞社はそれに応えられるような選択眼を持って、記事を提供していかないといけないわけですね。

池井戸 株、金利、米ドル、天気などは、ネットで調べればすぐにわかります。それと同じようなレベルで、ただ情報を流すだけでは全く意味がない。そこに軽重を付けて初めて意味がある。読者によっては「そうだよな、やっぱりこっちが重要だよな」とか、場合によっては、「こんな重要なことがなぜこんな小さな扱いなんだろう? 現場を知っているのか」となるかも知れない。つまり、そうした紙面のありようがそもそも新聞の存在意義ではないでしょうか。

宮 岸 そういう中で専門紙の役割についてご意見を。

池井戸 ニッキンさんのような専門紙は、情報のフィルター力が期待されていると思います。バンカーにとって必要な情報を全国紙から見つけようとすると、ものすごく手間とノウハウが必要になりますが、それがニッキンを読めば自分が欲しい情報が過不足なく集まっている。そういうフィルターとしての機能が求められている。ただ、記事の軽重の付け方に見識が表れるため、そこを誤ると読者から評価されなくなってしまいます。

宮 岸 メガバンクや地域銀行、信用金庫など協同組織の金融機関がある。地方や東京、海外で働くバンカーもいますから読者ニーズは多様化しています。

池井戸 メガバンクの行員は、主に日経新聞を読んでいる気がします。自分の取引先の業績や相場を見ている人、石油や原材料の市況を見ている人など。それをニッキンさんがすべてカバーするのは難しいでしょう。一方で、たとえば地銀の中高年で、企画部門や融資畑、人事畑の人達が読んだときに「全ページに読むところがあるぞ」と思わせる紙面は構成できるのではないか。漠然と金融ネタを並べてもダメで、そういった想定ターゲットに必要な記事を掲載できれば、満足度が上がるのではないでしょうか。若い読者には、入門編的な業界解説を付けてみるといったアレンジをするのも良いかもしれません。

宮 岸 社会構造や金融界の変化に適応した紙面改革が欠かせません。また、新入生を始めとする若いバンカーに、金融の仕事の役割だとか、働きがいといったものを感じてもらえるような紙面も必要だと思っています。

池井戸 銀行の数が減ってきているので、先行きはあまり明るくないかも知れません。でも、中小企業の社長たちは、金融機関の動向にものすごく興味を持っている。例えば、自社の信用格付けはどうなっているかとか。現状は税理士などの助言に頼っていると思いますが、中小企業の経営者が読んだときに、「あっそうか、今後の融資はこう考えればいいのか」「こんな資金調達の方法があったのか」などと参考になるページを作る。読者ターゲットを少しズラすとか、取材対象を広げたりすれば、新たな読者を取り込めるかも知れません。すぐに紙面でやるのが難しいのであれば、ネットで先に対応してみるとか。ニッキンさんにはそれだけの情報とノウハウがあるわけですから。

 

クリエイティブな仕事を

直木賞作家の池井戸潤氏

宮 岸 個人あるいは事務所として取り引きしている金融機関のサービスには満足されていますか?

池井戸 口座はいくつかありますが、懇意にしているのは、ある都市銀行ですね。

宮 岸 長い取引の中で、先生のニーズはわかっているのでしょう。

池井戸 ある程度は知っていると思いますが。例えば銀行からダイレクトメールで、「こういう節税商品が出ました。ニーズにピッタリです!」といった案内があれば、すぐに連絡するのに。「株が下がっている。ここぞ買い時だ」と思っても、メールの自動配信などのシステマチックな提案もない。おそらく金融庁の指導があるんでしょうが。未だに担当者の才覚と行動に頼っているところがありますね。担当者が商売熱心で相場に鋭い人間であれば、「あの人にこれを売ってみよう」となるのでしょうが、そうでなければナシの礫(つぶて)です。

宮 岸 一時、個人事業主、富裕層向けに節税効果がある法人保険が話題になりましたが、その時は提案があったのでしょう?

池井戸 なかったですね。興味がなくはないので、言ってくれればいいのにと思ったけれど。そもそもほかの業界と比べて、銀行など金融機関のやり方は古いんじゃないでしょうか。

宮 岸 今、金融機関は収益的にも厳しい。カネ余りのなかで、伝統的な商業銀行業務では、先が見えない。一方、IT(情報技術)やフィンテックの急激な台頭で、銀行員自体の数が減っている。バンカーも気持ちが落ち込み、閉塞感がある。そういうなかで、銀行員あるいは金融機関に先生からエールをお願いします。

池井戸
 銀行から何かブレークスルーが出てくる気が全くしません。IT業界だと、今までの生活を変えるような全く新しい進歩がありますよね。例えばソニーのウォークマンから始まって、ウィンドウズ、スマホなど。銀行員はルールや目標に縛られていて、別に人手を使って売らなくてもいいものも多い。融資の判断も、そのうちAIがやるようになるでしょう。一方で、資金調達のニーズがある人たちは、目を向ける先が銀行ではなくなりつつあります。ネットで広く投資を呼びかけ、小口で集めるクラウドファンディングも一般的になってきてますよね。M&A(合併・買収)も増えてきていて、今後の一大テーマになっていくのではないでしょうか。経営者が高齢化しているので、あと10年のうちにはものすごい大激動が起きるのではないかと。

宮 岸 地銀もM&Aに力を入れていますが、ノウハウ不足から専門の会社に仲介するケースも多いようです。

池井戸 M&A市場では圧倒的に買いが多い印象です。一方で、売りたい会社できっちり値がつく会社は少ない。売りたいのならば、2、3年かけて「磨き上げ」という段階が必要になってくる。それこそが銀行が担うべき仕事ではないでしょうか。地元企業のことを一番知っているのが地銀なんですから。困っている取引先を支援するのは当然の役割です。安易に専門会社に〝丸投げ〟して高い手数料を払うのは残念ですね。果たしてそれでいいのか。日常業務に目を向け、既存の仕事の殻を破るような、また今のやりかたを変えていくような声を出していくべきです。もっとクリエイティブな仕事をしてほしいと願っています。

宮 岸 ニッキンもそういう熱いバンカーが増え、金融機関が社会、地域とともに成長するのに役立つ情報発信に努力していきます。今日は本当にありがとうございました。

※前編はこちら!


【プロフィール】

池井戸 潤(いけいど・じゅん) 1963年岐阜県生まれ。慶応義塾大学を卒業後、都市銀行に入行、95年退職し、作家として活動。98年、『果つる底なき』(講談社)で第44回江戸川乱歩賞を受賞し、小説家デビュー。2010年、『鉄の骨』(講談社)で第31回吉川英治文学新人賞を受賞。09年4月から12年3月までニッキン紙で『狂咲舞の事件ファイル』を連載中の11年、中小企業を舞台にした『下町ロケット』(小学館)で第145回直木賞を受賞。銀行を舞台にした「半沢直樹シリーズ」では『オレたちバブル入行組』ほか、弱小企業野球部の救済を描く『ルーズヴェルト・ゲーム』、企業の不正を描いた『空飛ぶタイヤ』『七つの会議』、政治と若者の就職難をテーマにした『民王』など、幅広いジャンルに挑戦。20年、半沢直樹シリーズから『ロスジェネの逆襲』『銀翼のイカロス』を原作としたTBSドラマ『半沢直樹』が復活する。
 
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