社説 マイナカードの信頼回復急げ
マイナンバーカードをめぐるトラブルが相次いで明らかになっている。政府はカードの利便性を高め、民間事業者による本人確認などでの活用にも広げようと躍起だが、制度への不信が募れば、デジタル社会の実現が遠のくことを肝に銘じてほしい。
公金受取口座に家族名義の口座が登録された例が13万件に達したことが明らかになった。他人による誤登録も748件見つかった。全体の約0.001%にとどまるとはいえ、不信感は拭えない。マイナカードと一体化させた健康保険証に別人の情報が紐づけられた例や他人の年金記録が閲覧できる状態になっていたケースも発覚した。
マイナカード申請者は6月4日時点で9700万人。人口に対する申請率は77%に達し、交付数は9千万枚を超えた。税金をつぎ込んだポイント付与策が奏功したと言えるが、登録作業を担う現場に負荷がかかり、ミスを誘発した面は否定できない。
政府はマイナカードを確実で安全な本人確認・認証ができる「デジタル社会のパスポート」と位置づける。金融機関による非対面の本人確認はマイナカードを使った形式に集約する方針だ。民間サービスでの利便性も高め、日常生活で使える市民カード化を目指している。
2026年中に導入を予定する次期カードでは搭載する偽造防止策や暗号技術を向上させる計画だ。安全性は信頼の礎であり、慎重に検討する必要がある。
信頼は一度失えば回復に長期間を要する。公金受取口座の登録は23年度下期以降に金融機関でも始まる。今回の件を人ごととせず、万全を期してほしい。
政府は6月9日、マイナカードの利便性向上策を盛り込んだ重点計画改定版を閣議決定した。文書には国家安全保障の関連記述を除いても「安全」という2文字が50カ所以上現れる。お題目に終わらせるわけにはいかない。2023.6.16
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