ニッキン抄 2023.7.28
英国の歴史家トマス・カーライルの代表作は「フランス革命史」。その膨大な枚数の完成原稿を友人の哲学者ジョン・スチュアート・ミルに読んでもらおうと送ったところ、ミル家の女中が暖炉の焚(た)き付け用と勘違いして全て燃やしてしまった▼彼のようなライフワークの大作とは比べようもないが、取り返しの付かない悔しさには覚えがある。昔のワープロはよくフリーズした。原稿を記憶媒体に上書きする前に画面が固まると、「どうか消えないで」と祈りながら再起動するしかなかった▼カーライルが凡人のように「あぁ~」と奇声を上げたり、舌打ちしたかはわからない。ただ、しばらくは茫然自失(ぼうぜんじしつ)だったという。それでも自分を鼓舞し、再び筆を執って初稿にまさる傑作を書き上げた▼人流に制限のない夏が4年ぶりに戻ってきた。浴衣が行き交う花火大会、飛び入り参加の踊り子、満席のビアガーデン。コロナ下での喪失感を乗り越えて味わう“夏の風物詩”は、また格別だ。2023.7.28
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