ニッキン抄 2023.8.11
「とんとん とんかつ食いたいな 蓬莱屋（ほうらいや）がなつかしや」。長野県の山荘で小津安二郎がふざけ半分に作った小唄の一節だ。東京・上野の蓬莱屋は通い続けた馴染（なじ）みの店。映画「秋刀魚の味」のとんかつ屋のシーンでは、店から本物を取り寄せて撮影した▼今年は小津の生誕120年。生涯54本の映画を監督し、家族を題材とする作品を撮り続けた。日常を淡々と描く作中の何気ない会話が心地いいのは、推敲（すいこう）を重ねた脚本ゆえだろう。くだんの山荘にこもり、一本のシナリオに3～4カ月かけた▼新型コロナの5類移行後、初めてのお盆を迎える。飛行機や新幹線の予約者数は4年前の水準を回復。夏祭りも本来の規模での再開が相次ぎ、金融機関の参加がにぎわいに花を添えている▼「ボクは豆腐屋だ。とんかつ作れったって、うまいものが出来るはずがない」。そう言って小津は自分の作風を変えなかった。帰省先の食卓で、自分の持ち味を思い返してみるのもいいかもしれない。2023.8.11
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