社説 モラルハザードの広がりを憂う
続出する金融不祥事に目を覆うばかりだ。金融庁と東京証券取引所に続き、三井住友信託銀行でも株のインサイダー取引疑惑が発覚。また、国債先物の相場操縦問題で課徴金納付命令を受けた野村証券を巡っては、元社員が容疑者の強盗殺人未遂事件も起きた。投資家や顧客の信頼を裏切る行為が短期間でこれだけ表面化するのは深刻な事態だ。モラルハザード(倫理観の欠如)の広がりを憂う。
インサイダー取引疑惑では、市場の公正を守るべき立場の金融庁と東証で起きた責任は極めて重い。三井住友信託銀も顧客から預かった資産を管理・運用する大手信託銀として信じがたい行為だ。政府の「資産運用立国」実現の足を引っ張りかねない。
逮捕された野村証券の元社員は、顧客の80代夫婦宅に放火し現金約2600万円を奪った疑い。計画的犯行の可能性もあるとみられ、事実ならば断じて許されない。「見せ玉」で相場操縦した事案に続く衝撃的な事件で、傷ついた信頼の回復は容易でない。
いずれも事実調査と原因究明が急がれる。その際重要なのが、浅慮で社員個人の問題として矮小(わいしょう)化しないことだ。不正の多くは偶発的に起きるのではなく、企業体質や不正を監視・けん制するガバナンスの不全が背景にある。不祥事を生んだ温床がどこにあったのかを徹底的に洗い出すことが重要だ。再発防止策も対症療法的なものでなく、組織を再生させる視点が要る。
社員の倫理・法令順守の教育が形式化していないかも見直すべきである。マニュアル整備や研修をもって対応済みとしているようでは不十分だ。最近は「社会常識や規範を学ぶ教育機会が減っている」(コンプライアンス実務専門家)との指摘もある。「自分ごと」として十分に理解・浸透させることが求められる。
不祥事を起こした組織は自浄作用が働くように総力を挙げるとともに、金融界全体で今後の教訓にしてほしい。2024.11.8
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