社説 不正許さぬ風土を醸成せよ
金融界で行職員の着服・横領事件が頻発している。本紙調査によると2020年は82件に上り、3年前の30件から2.7倍に急増した。信用が生命線の金融機関にとって不正の多発は由々しき事態である。金額が1億円を超す事案や、長期にわたって犯行を繰り返す悪質なケースも見受けられる。不祥事が起きた該当金融機関は根本原因を究明し、再発防止を徹底するのはもちろん、金融界全体で他山の石として撲滅に努めてほしい。
内部事件で最近目立つのが中堅・管理職層による不正。信頼され、金銭の取り扱いを任された立場を利用して犯罪に手を染めることが多いと専門家は指摘する。着服・横領の機会を与えないよう、自店検査や本部監査による牽制(けんせい)機能の強化が重要だ。
動機として挙げられるのが、管理職は業績悪化などに伴う手取り収入の減少や過度な業績目標に対するストレス。若年層では多額の返済が必要な奨学金を抱えたまま入社し、不祥事件を起こす例も起きている。私生活の乱れに加え、こうした昨今の環境変化を想定した個人面談などを通じて借金の有無や職場の不満を聞き取り、予兆管理することが必要になる。
ただ、不正を働く根本的な問題にコンプライアンス意識の欠如がある。仮に「機会」や「動機」があったとしても、顧客から大切なお金を預かっているというバンカーとしての倫理観がしっかり確立していれば不正にはつながらない。実際、着服には「一時的に借りるだけ」といった“正当化”しようとする心理が働いていると言われる。倫理教育の再徹底が求められる。
不祥事が起きれば社会的信用が傷つき、経営自体も揺るがしかねない。過去に金融機関で発生した事案を分析し、教訓を自らの組織に適用してほしい。不正を許さない職場風土の醸成が急がれる。2021.2.12
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