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社説 なし崩し的「温存」にノー

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 既定路線のはずだった商工組合中央金庫の完全民営化は、政界と官僚による巧妙な先送りにより実現を見ない。リーマン・ショックや東日本大震災など危機到来のたびに政府保有株の処分期限が延期され、2015年の法改正では完全民営化の方針を維持しつつも無期延期となった。
 ただ、完全民営化の是非を巡る議論が再び動き出した。中小企業庁の有識者会議が8月3日、再建に取り組んできた商工中金に対し完全民営化の条件を事実上クリアしたとする報告書をまとめた。
 17年に発覚した危機対応融資の不正利用には、商工中金の国内100店舗中97店舗で444人の職員が関与。「解体的な出直し」を掲げた中期経営計画(18~21年度)の履行結果に対し、有識者会議は合格点を与えた。
 だが、政府内では完全民営化に慎重な意見が支配的だ。その理由は民間金融機関は危機発生時に自己防衛に走りがちなため、企業の救済には政府系金融機関の温存が必要というもの。自己資本を棄損すれば市場から退場を迫られる民間金融機関が危機下の与信に二の足を踏むのは当然だろう。それでも政府系の温存だけが唯一の選択肢ではない。
 危機対応融資は、政府系機関の完全民営化を見据えて創設された経緯がある。今回のコロナ危機で再び発動され、商工中金は3.6万件(2.6兆円)を実行。一方、同じ目的で発動された民間版実質無利子・無担保融資(ゼロゼロ融資)の実績は198万件(37兆円)。いずれも国が関与する公的金融だが、規模の差は明らかだ。
 有識者会議の報告書を見ると、その文面には完全民営化を婉曲(えんきょく)に否定する表現も散見される。だが、なし崩し的に政府が商工中金を保有し続けるシナリオには強い疑問を拭えない。巨大すぎる公的金融の存在は市場をゆがめる。2022.8.12


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