社説 企業支援のマインド忘れるな
銀行の2023年3月期決算は大手行・地域銀行ともに好調さが目立った。海外債券の含み損処理が足を引っ張ったが、保有株式の益出しや貸出金利息、手数料収入の伸びでカバーした。ただ、低位で推移する与信関係費用が急増すれば業績は揺らぎかねず、警戒を解くのは早すぎる。
当期純利益は大手行5グループ(G)が22年3月期比7%増え、海外収益比率が高い3大銀Gに限れば9年ぶりの高水準だった。三菱UFJフィナンシャル・グループの実質業務純益は30%増え、16年2月のマイナス金利政策導入前の水準に戻った。地域銀行も5月15日までに発表された83行Gの純利益が13%増え、回復傾向が続いた。
一方、良好な決算は低位安定する与信関係費用が支えることを忘れてはならない。国内ではコロナ禍で借り入れた融資の返済が23年度に本格化する。実質無利子・無担保融資は公的保証で保全されるとはいえ、取引先が行き詰まれば関連企業に波及する恐れもある。
帝国データバンクによれば倒産件数が22年を上回るペースで増えており、4月は2カ月連続で600件を超えた。売り上げ不振などによる不況型が9カ月ぶりに8割に達した。人手不足に起因する倒産も13年1月の集計開始以来、最多だ。
海外ではメガバンクの業績を支える米国に不安が漂う。急速な利上げで地方銀行の信用不安が続いている。貸出態度が慎重になりつつあり、信用収縮を通じた景気悪化懸念は残る。メガバンク首脳は「長期間にわたり緩やかに落ち込むのが最も怖い」という。
コロナ禍は終息へ薄日が差し始めた。未知の感染症危機は金融機関に正面から取引先と向き合い、一緒に変革へ進む機運を生み出した。平時に戻っても健全な危機意識を忘れず、この姿勢を貫いてほしい。デジタル化や脱炭素、人材不足といった取引先の課題は残っている。2023.5.26
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