社説 前進も課題残る総会前開示
金融庁の要請を受け、有価証券報告書の株主総会前開示が本格化する。本紙が5月16日までに決算を発表した大手行・地域銀行82行・グループの有報開示予定日を集計したところ、全社が総会前開示を予定していた。株主・投資家との建設的な対話実現に向けた一歩と評価できるものの、改善の余地はある。
総会前開示を求める声は海外投資家から強かった。株主総会資料より詳細な情報が記載された有報が総会前に開示されれば、その情報を議決権行使に反映できるからだ。
銀行の開示予定日は総会1日前が最多の31社。次いで多い2日前の20社を合わせると6割になる。金融庁も今年については、「前日あるいは数日前の開示」を検討するよう要請していた。ただ、詳細な情報を読み込むには、1日前や2日前で十分とは言えまい。金融庁は3週間以上前が最も望ましいとしている。
一方で有報の前倒し開示を含め、増える企業側の開示作業負担は無視できない。ほとんどの銀行は同時に株主総会の関連資料を作成し、間を置かず統合報告書やディスクロージャー誌を発行することになる。東京証券取引所プライム市場上場企業には4月から重要な情報開示の際は、英文での同時開示も義務付けられた。サステナビリティ情報の充実も求められている。
前倒し日数を広げる方法として、決算期の変更もあるが、銀行の事業年度は銀行法で4月1日から翌年3月31日までと定められており、そぐわない。重複・類似する開示を一本化するなど情報開示のあり方全般を見直しつつ、さらなる前倒し開示を検討していく必要があろう。機関投資家だけでなく、個人投資家向けの分かりやすい情報開示も期待される。
投資家との対話充実は積年の課題だ。総会前開示を金融庁へのアリバイ作りに終わらせず、投資家との対話を自社の成長に生かす姿勢で、改善に努めてもらいたい。2025.5.30
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