社説 小手先で内定辞退は防げず
2025年4月に入社予定の新卒採用内定者数は、前年比で増加基調を維持した。日本銀行は、3月にマイナス金利政策を解除し、7月には追加利上げを決めた。預金を扱う金融機関が待ちに待った金利環境の変化が、採用戦線にもマインドチェンジをもたらしているのは明らかだ。ただ、内定者数の増加は、金融機関が高水準の内定辞退率を織り込んでいる結果でもある。小手先の対応だけでは内定辞退を防ぐことは難しい。
本紙が調査した銀行・大手信用金庫154機関の新卒内定者数は、10月1日時点で1万3945人。前年に比べ12%増えた。日銀がマイナス金利政策を導入したのは16年2月。同年10月から内定者数は減少基調に転じた。ようやく底を打ったのは、21年10月。その年のボトムの数(1万280人)と今年の実績を比較すると、35%増の水準まで回復した。
ただ、国内全域での人手不足を反映し、人材の質を保つのは難しいようだ。数年前までは銀行の人事担当者から「質を落としてまで(採用者の)数を確保するつもりはない」という声もちらほら聞こえたが、局面は変わりつつある。現場の人手不足感が深刻度を増していることに加え、銀行が非金融業務を含む新規事業に参入する事例も増えている。しっかり数を確保したうえで、新たな育成システムを確立するという視点への切り替えが必要だ。
日本企業の採用活動は新卒採用が主流だったが、近年は中途採用のウエートが急速に高まっている。それでも、新社会人を迎え入れる内定式が行われる10月1日は企業にとって特別な日だ。ただ、来春の入社式までは内定辞退の可能性が残り、入社後も早期離職の不安がつきまとう。表面的な対策だけで人材をつなぎ留めることはできない。結局は、働き方とビジネスモデルの両面で芯の通った将来ビジョンを明確に示すことが、人材流出を防ぐ近道となるだろう。2024.10.18
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