社説 揺らいだ信頼を回復する1年に
三菱UFJ銀行で起きた貸金庫の窃盗事件は、金融機関全体に管理体制の一斉点検が求められる異例の事態に発展した。同行は不正をなぜ防げなかったかの調査を尽くし、根本原因を徹底的に究明するべきだ。同時に他金融機関もリスクを総点検し、改善すべき点があれば対策を講じる必要がある。顧客の不安払拭へ、金融界を挙げて不祥事の防止に取り組んでほしい。
昨年12月中旬に記者会見した三菱UFJ銀の半沢淳一頭取は「信頼・信用という銀行ビジネスの根幹を揺るがす事案」と謝罪。40代女性の元行員が予備鍵で2支店の貸金庫から顧客約60人分の金品を盗んでいたとし、再発防止へ予備鍵を本部で一括管理する方式に変更すると発表した。
問題は約4年半もの間、不正が発覚しなかったことだ。定期点検は子会社が半年ごとに行っていたが、形骸化していたことは否めない。また現場で違反・逸脱行為のけん制がなぜ効かなかったのか。そうした背景を子細に検証しなければ、自浄作用が十分に働く組織文化は作れない。
コンプライアンス実務の専門家は「ここ数年で金融機関に海外のリスクベース監査が導入され、監査の重点が営業店から本部に移った」点も不正を見逃した一因とみる。現場の自主的なチェック機能が低下しているとの指摘だ。
仮にそうした状況が生まれているならば、より俯瞰(ふかん)的に内部不正のリスクを捉える必要がある。貸金庫の管理体制を再点検している他の金融機関も、リスクを排除する仕組みの実効性をあらゆる角度から検証してもらいたい。
金融界では昨年、貸金庫事件だけでなく「信用」を傷つける重大な不祥事が相次いだ。全国銀行協会の福留朗裕会長は新年賀詞交歓会で「お客さまの信頼を預かるに値する確かな存在であり続けられるよう一層気を引き締める」と決意を述べた。今年は不祥事と決別し、信頼を取り戻す1年にしなければならない。2025.1.10
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