社説 事業再生指針は広範な検討を
全国銀行協会などは、コロナ禍で過剰債務に陥った中小企業の事業再生を支援するガイドライン(指針)の策定に向け議論を始めた。政府の成長戦略実行計画に盛り込まれたもので、新たな私的整理スキームを作るのが主眼だ。苦境に立つ企業の再生を後押しする手段の一つとなろう。一方、安易な債務減免によるモラルハザードが懸念される。手続きの公平性をどう担保するかなど幅広い視点での検討が求められる。
2001年に全銀協主体で定めた「私的整理に関するガイドライン」は、全債権者による同意や債務超過を3年以内に解消する必要があるなど、中小企業が使いにくい点が指摘されてきた。新たな指針を検討する研究会ではこうした要件の緩和や、金融機関が弁護士ら第三者の専門家と協力して取引先の再生を支援する仕組みを議論する方向だ。
ただ過剰債務を抱える企業はコロナ禍前から業績不振のケースもみられ、適用先の線引きは容易でない。経済合理性や経営規律の確保といった論点をしっかりと踏まえ、債権放棄や返済猶予に向けた金融機関の合意形成のあり方に関し議論を尽くしてほしい。
また、過剰債務の改善には「再生企業の債権を買い取るファンドの充実や、資本性資金の供給メニューを増やすことも重要」(大手行幹部)との声もある。指針には事業再生に関する考え方を広く盛り込む見通しで、金融界は実務者の立場から積極的に意見発信してもらいたい。
もちろん事業再生は債務調整だけでは本質的な解決にならず、収益力向上への抜本改善が不可欠。例えば指針で事業再構築補助金を積極的に活用し、業態転換や事業再編を促すことも有効だろう。研究会には金融団体のほか弁護士や大学教授など有識者、関係省庁も加わる。事業支援の包括的な議論に期待したい。2021.11.12
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