社説 「便利」で「安全」なデジタル給与を
働く人が「PayPay」や「d払い」などの電子マネーで賃金を受け取れる「デジタル給与」の解禁が決まった。来春にも実現する見通しで、厚生労働省は労働基準法施行規則の改正など法整備を急ぐ。一般的な賃金の支払い方法が現金支給から振り込みに変わって以降、銀行や信用金庫などが独占してきた分野だ。フィンテック企業の新規参入により国民生活の利便性向上につながることを期待したい。
キャッシュレス決済の普及を目指す政府が旗を振る形で実現した。ただ、解禁の是非や課題を議論してきた労働政策審議会(厚労相の諮問機関)の分科会では、激しい論争が交わされた。大方の参加者が賛意を示すなか、労働者の代表として参加した日本労働組合総連合会(連合)は従業員側が不利益を被る事態を排除するよう訴え続けた。
その結果、電子マネーを扱う資金移動業者が破産した場合でも給与を受け取れる保証や上限金額(100万円)の設定、ATMで電子マネーを現金化する際の手数料無料化、他者にアカウントから不正に資金を奪われた際の補償などの必要性が示された。安易な妥協を避けた連合と、諸課題への対策を講じて合意にこぎつけた有識者会議の成果だ。
デジタル給与の潜在ニーズは小さくない。公正取引委員会が3年前に実施した調査では、QRコード決済のアカウントで賃金受け取りを検討すると回答した消費者は4割。キャッシュレス決済のアクティブユーザー数は月間5千万人超。今後も使える場所や利用者数の増加が予想される。電子マネーをチャージする手間がなくなることを歓迎する消費者は一定数にのぼろう。
ただ銀行界が堅持してきた勤労者の信頼は守らなければならない。資金移動業者を監督する金融庁と厚労省は連携を密にし、ルール策定に万全を期してほしい。参入を検討するフィンテック企業には、金融機関と同等の高いモラルと健全な経営が求められる。2022.9.23
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