社説 ことら普及促進へ総力挙げよ
金融機関のリテール決済分野が転機を迎えた。スマートフォンを使った個人間の小口決済サービス「ことら送金」が始まり、年間約20兆円ともされる現金取引の取り込みが期待できるからだ。現金決済インフラの維持コスト削減だけでなく、若い世代などとの日常的な接点を強められるメリットは大きい。金融界はことらの普及促進へ総力を挙げて取り組んでほしい。
スマホ決済の市場規模は加速度的に伸びている。キャッシュレス推進協議会によると、QRコード決済取扱高は2021年に7兆円を突破。先行する決済事業者が還元キャンペーンなどで新規顧客を増やしてきたことが大きい。ことらは携帯電話番号やメールアドレスで無料または廉価で10万円まで送金できる仕組み。金融界が小口決済市場で巻き返す起爆剤となり得る。
ことら送金には現在、大手行と地域銀行の計31行が参加。近く57行に増える予定だが、一部で振込手数料の減収を懸念する向きもある。だが、ことらが普及すれば年間2兆8千億円に上るATM運営費などのコスト削減に寄与するだけに、そうした意義を信用金庫なども含めて共有し、金融界全体にネットワークが広がることを期待したい。
一般消費者に浸透させるための認知度向上も急がれる。ことら送金は自身の他行口座への移し替えや小遣い、割り勘、立て替えなどが主に想定される。利用場面に合わせた周知・プロモーション活動に知恵を絞ってほしい。
また、サービス開始当初は「バンクペイ」や「Jコインペイ」といった共同利用型の決済アプリを採用する銀行が多い。だが、顧客にとっては日頃利用する銀行アプリに組み込まれた方が使い勝手が良い面もあろう。銀行側も利用状況をモニタリングし、データを収集・蓄積することで個人向け与信などに生かせる。ことらを、中長期的にリテール業務の新たな収益につなげる視点が必要だ。2022.12.9
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