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社説 異次元緩和の限界示した10年

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 日本銀行の黒田東彦総裁が4月8日、10年間と歴代最長となる任期を終える。短期決戦で始めたはずの異次元の金融緩和策は、今なお「2%物価安定目標」の達成には至っていない。一方で“劇薬”とされる政策の長期化によって、金融機関の収益圧迫や市場機能低下など副作用を生んだ。政府・日銀は金融政策だけでは限界があることを真摯(しんし)に受け止めるべきだ。
 2013年4月に就任した黒田総裁は、デフレ脱却を掲げる政府の経済政策に呼応。マネタリーベース(資金供給量)や長期国債、ETF(上場投資信託)の保有額を2年で2倍に拡大するなど異例の積極緩和策で「人々の期待に働きかける」効果を狙った。
 金融市場は好感し過度な円高は是正、株価も上がった。だが、肝心の物価は上がらず、政策の手詰まり感が指摘されるなかで、マイナス金利や長短金利操作(YCC)など追加策を投入。それでも期待通りの効果を上げず、潜在成長率も低下が続いた。「粘り強い緩和継続」は経済復活の処方箋とはならなかった。
 他方、長引く超低金利が預貸金利ざや縮小など金融界に与えたマイナス影響は大きい。運用難の金融機関を過度なリスクテイクに走らせた側面もある。長期金利を低く抑えるYCCも弊害が目立つ。
 日銀の国債保有は約580兆円に増え、発行額に占める保有割合は10年前の約1割から5割を超す規模に膨張。大量のETF購入と合わせ、日銀の財務悪化リスクを高めた。「出口」に向け身動きが取れない状態に陥りかねない。
 こうした超低金利政策を黒田総裁がかたくなに断行してきた背景には、金融市場への悪影響を考慮した面もうかがえる。だが、「2%物価目標」に固執した結果、政策の柔軟性を失わせた点は否めない。植田和男新総裁には政策正常化への道筋を描くとともに、少子化対策などの構造改革を政府に対して積極的に求めていくことも望みたい。2023.3.31


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