ニッキン抄 2023.3.31
入社式には、散り始める間際の満開の桜よりも、新緑がのぞく葉桜がよく似合う。全国の桜の約8割を占めるソメイヨシノは、江戸時代の終わりに品種改良によって人工的につくられ、明治時代以降に各地に植樹された▼それ以前の花見といえば野生品種のヤマザクラだった。開花の前に赤紫の若葉が芽吹くのが特徴。花の量が多く吹雪のように一斉に散るソメイヨシノとは対照的に、ゆったりと落花する。桜を詠んだ平安時代の和歌がどこかはかなげなのはそのためだろう▼同じ時代の中国・唐にも、風や雨で散る花を別れに見立てた漢詩がある。大酒のみだった井伏鱒二の訳が有名だ。「この杯(さかづき)を受けてくれ どうぞなみなみ注がしておくれ 花に嵐のたとえもあるぞ 『サヨナラ』だけが人生だ」(原詩は于武陵(うぶりょう)の「勧酒」)▼退職や異動で去る人と、新しく職場に来る人が交差する桜の季節は人生の縮図。お酒が恋しくなるのもやむをえまい。2023.3.31
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