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社説 柔軟性を問う「撤退」の決断

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 みずほフィナンシャルグループとLINEが3月30日、共同で開業を目指していた新銀行「LINEバンク」の設立を中止すると発表した。アプリ上で完結する「スマホ銀行」を志向したが、安全なサービスの構築にはさらに一定の期間と追加投資が必要になるとして断念した。
 見通しが甘かったという指摘はあろう。ただ、撤退を合理的に判断するガバナンスが機能した面も忘れてはならない。撤退を決断した背景には「スマホ金融」をめぐる急激な環境変化がある。個人情報保護やサイバー攻撃対策への要請が高まり、システムコストが膨れ上がる恐れがあった。グループ全体の戦略や経営体制の変更も影響した。環境に目を凝らし、事業の将来を検討した結果と言える。
 ここ数年、過去にとらわれず路線修正した例は少なくない。2022年12月、三菱フィナンシャル・グループが米国戦略の象徴だったMUFGユニオンバンクを手放した。収益力が低下しても他行がうらやむドル資金調達の源泉だったが、強まる規制や投資負担を冷静に見極め、資本効率の観点から売却に動いた。
 日本企業は経営陣の思いが優先し、環境が変化しても冷静に先を見通した撤退が苦手とされる。保守的な銀行界はその傾向が強い。変化したのはフィンテックを取り入れるのに伴って普及した、小単位で実装とテストを繰り返す「アジャイル志向」が影響しているとの見方がある。ある地方銀行トップは「失敗とわかった時点で修正すればいい」と行内外に発信し続ける。行外に伝えるのは「イメージを変え、いざという時に行内がちゅうちょしない雰囲気を醸成したいから」という。
 折しも4月3日、金融界の将来を担う新入社員がキャリアを歩み始めた。入社式では「失敗恐れず挑戦を」「柔軟な発想を」と期待するトップの声が相次いだ。その思考が問われるのは新入社員だけではない。2023.4.7


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