社説 損保、信頼回復に猶予はない
損害保険業界でまたも顧客の信頼を損なう不祥事が明らかになった。大手損保4社の契約者に関する個人情報計約250万件が保険代理店を通じて他社に漏えいしていた。ビッグモーター問題や共同保険の価格調整に続く不正で、顧客軽視の悪(あ)しき慣習が根深いと言わざるを得ない。損保業界は、信頼回復に一刻の猶予もないという覚悟で臨まねばならない。
情報漏えいがあったのは東京海上日動火災保険、損害保険ジャパン、三井住友海上火災保険、あいおいニッセイ同和損害保険の4社。各社が公表した調査結果によると、複数の損保商品を扱う「乗合代理店」を舞台に二つの類型で不正があった。
一つが、保険の更新が近いなどの契約者情報を代理店がメールで送る際、損保各社に一斉送信していたこと。損保側は他社の情報と認識しながら代理店への指導を怠っていた。もう一つが、代理店に出向した損保社員が他社の契約者情報を自社に送っていたケースで、ずさんな情報管理の実態が露(あら)わになった。
背景には営業数字や市場シェアを重視するあまり、コンプライアンス意識の欠如を招いたことが挙げられる。さらに本質的には保険料の事前調整などと同様に、業界全体に長く根付いてきた旧態依然とした慣行があり、抜本的にメスを入れることが必要だ。
損保各社は漏えい問題を受け、出向制度の見直しやリスク・内部管理態勢の強化といった再発防止策を打ち出している。ただ、これらの対策に実効性を持たせるには企業カルチャーを根本から改めねばならない。経営トップが先頭に立ち、顧客本位の業務運営を現場に徹底させるしかない。金融庁にも旧弊打破へ強い指導力を期待したい。
業界で相次ぐ一連の不祥事は、本来の顧客をないがしろにしたことに起因する。健全な競争風土の醸成に向け、保険の商品・サービス提案で競う原点に立ち返るべきだ。2024.9.13
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