社説 非常時に使いやすい特例制度を
石巻、気仙沼、あぶくまの3信用金庫が、東日本大震災の発生を受けて資本増強のために活用した公的資金を2026年2月に一括返済することを表明した。11年3月の震災発生から14年余り。復興に取り組みながら、着実に自己資本を積み上げ、3信金ともに公的資金返済後の自己資本額は注入前を上回る見通しだ。難しい環境下で、堅実に経営してきた証左と言えよう。
あぶくま信金の太田福裕理事長は本紙6月13日号の「改革の旗手」で、原子力発電所事故による放射能の影響から、震災後に4分の1の職員が離職せざるを得なくなり、業務継続に苦労したことを明かしていた。3信金に限らず、被災地の金融機関は当事者にしか分からないさまざまな苦難と向き合ってきたに違いない。
ただ、被災地を取り巻く環境は、復興が途上にあるうえ、人口減少が進み楽観できる状況にはない。3信金には、公的資金返済を通過点とし、しっかり地域を支える取り組みを続けてもらいたい。
3信金が利用したのは、経営責任や収益目標などを求めない金融機能強化法の震災特例だ。コロナ禍でも設けられた特例のあり方は今後、金融審議会の部会で公的資金制度全体を議論するなかで取り上げられる。
南海トラフ地震や首都直下型地震の発生なども想定されるなか、大規模災害発生の都度、特例制度を設けるより、恒久的な制度とし、非常時には機動的に利用できるようにしておくことも考えられる。のと共栄信用金庫は、能登半島地震で被害を受けた中小企業の支援のため、コロナ特例の活用を検討している。能登特例がないため、やむを得ないが、コロナ特例の趣旨からすれば、違和感を生じさせる。
議論にあたっては、利用した金融機関や地域の声も参考に、公的資金注入が中小企業支援に有効に働いたかどうかや、優先株(優先出資)の額や配当率、期間の妥当性についても検証の必要はあろう。2025.7.18
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