社説 厳正検査が必要な事態を懸念
金融庁が8月29日に公表した2025事務年度の金融行政方針には、金融界の不祥事対策に厳しく臨む姿勢が見えた。24事務年度の「はじめに」の文書では、「深度ある検査・監督等を通じて、金融機関の適切な業務運営及び健全性を確保する」とあったが、25年度は「厳正な監督・検査や規制の改善が必要である」となった。「厳正」と書かざるを得なかったところには忸怩(じくじ)たる思いもあるだろう。続く文書では、「金融システムの安定性や公正性への信頼を確保することは金融当局の責務」とし、強い思いをにじませた。
日本経済が大きな転換点にあるなか、今回の行政方針にもあるように、持続的な成長に資する金融機能の発揮や金融サービスの変革こそ力を割きたいところだろう。ところが、貸金庫からの窃盗事件や、協同組織金融機関のガバナンス不全、証券市場の信頼を揺るがすインサイダー取引、損保業界のカルテルなど不祥事が相次ぎ、並行して対応せざるを得なくなった。
不正融資や重大な法令違反が確認された協同組織金融機関については、財務局との連携により、実効性の高い検査・モニタリングを行うとした。また、保険料調整行為などがあった損保業界に対しても信頼回復へ監督体制の強化が示された。資産運用立国実現と相まって、保険会社の監督へ局の再編まで踏み込んだ。
一部では処分庁への先祖返りを懸念する向きもあるが、コンプライアンス順守は、金融機関の信頼のベースであり、守られて当然だ。改めて金融庁が、力を入れて検査・監督しなければならない事態を招いた金融界のモラル低下が危惧される。期間や規模など組織的と言われても仕方ない不祥事もあった。
すべての金融機関が、人ごととせず、ガバナンスやコンプライアンスを再徹底したうえで、取引先や地域の持続的成長を支える体制を構築してもらいたい。2025.9.12
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