社説 持続的賃上げへ取引先支援を
2025年度の最低賃金の地方審議会答申が出そろい、全47都道府県で1千円を超えた。全国平均は1121円となり、10年前の15年度平均798円に比べ323円上昇する。最低賃金の引き上げは、雇用者全体の賃金を押し上げる効果がある一方で、賃金支払いだけでなく社会保険料負担なども増えるため、中小・零細企業の経営圧迫要因になりかねない。使用者である企業の稼ぐ力や生産性を高めていくことをセットで考えていくことが重要だ。政府は2020年代中に全国平均1500円の実現を目指しているが、補助金頼みでは限界がくる。
今回、人口流出要因になる近隣県との差が強く意識され、39道府県が8月に中央最低賃金審議会が示した引き上げの目安(6%)を上回る額を答申し、過去最高の引き上げ幅になった。一方で使用者側が引き上げ幅に難色を示し、協議が紛糾した県もあったほか、適用時期を例年の10月より遅らせる県が相次ぐ。
物価上昇が続くなか、労働者の賃上げ期待は強いが、人件費負担の影響度は企業の収益力によって異なる。原材料費や人件費の高騰分を価格に転嫁できていない企業もあり、人件費負担の増加で事業継続を諦める事業者がでてくる懸念は拭い切れない。
金融機関も持続的な賃上げの実現へ取引先企業が適正な収益を確保できるよう支援していくことが重要だ。26年1月から事業者間の適正な価格転嫁や取引の適正化を図るため、改正下請法が施行される。デジタル化による生産性向上なども後押ししたい。
賃上げ基調が続くなかでも、人手不足は深刻化している。東京商工リサーチによると25年1~8月の人手不足倒産は237件で、年間で初めて300件を超えそうな勢いだ。人件費高騰を理由とする倒産も8月は12件発生している。ケースによっては、地域の中核企業などへの事業譲渡も支援の選択肢となろう。2025.9.19
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