2023年5月26日号2面 実像 「異例尽くし」の春闘(下)労使一体で持続的な賃上げへ
銀行界は2023年春闘で、満額回答が相次ぎ大幅な賃上げが実現したが、持続性の確保には積み残された課題が少なくない。今後は「人への投資」を従業員のモチベーション向上につなげ、中長期的な成長に結びつけられるかが焦点となる。そのためには、高付加価値のサービスが提供できる人材をいかに育成するかで成否が決まる。
■賃金カーブ緩やかに
例年の春闘ではスポットライトが当たらない「初任給」。今回は、賃金の起点として議論の俎上(そじょう)に上がった。「優秀な人材を確保する観点から若手層に重点配分した戦略的なベースアップ(ベア)だった」(大手行の労組幹部)と受け止める。2月13日~5月15日までに…
【写真】名古屋銀行は健康経営推進室が保健師と定期的に情報共有し、メンタルヘルス対策に生かす(22年10月、本部)
2023年5月26日号3面 金融界 マイナンバー関連法対応急務、預保と接続し口座登録
金融界では、2021年5月に成立したマイナンバー関連2法への対応が急務になっている。23年度下期以降に各金融機関はマイナンバーと紐付けて公金受け取り口座の事前登録受け付けを始める。24年4、5月には、口座開設時などにマイナンバーによる預貯金口座管理の意向確認が義務化される。両制度とも中長期的には事務負担の軽減が期待できる一方、勘定系システムを預金保険機構の新システムと接続するなど準備が必要となる。
口座登録法は給付金などを受け取る口座とマイナンバーを関連づけて登録する仕組みを規定する。22年3月に…
2023年5月26日号5面 3メガG、「PBR1倍割れ」改善へ、ROE目標掲げ成長性示す
3メガバンクグループ(G)が「PBR(株価純資産倍率)1倍割れ」の改善に本腰を入れている。東京証券取引所が上場企業のなかで株価が企業の解散価値を下回る1倍割れの状況を問題視しているからだ。各グループともROE(自己資本利益率)などの数値目標達成へ各種施策を実行し、投資家に成長性を示していくことが急務となっている。
三井住友フィナンシャルグループは、PBR1倍に向けてロードマップを作成。その実現に向け、4月にスタートした3カ年の新中期経営計画でROEを現在の6.5%から8%まで引き上げ、…
【写真】PBR改善の方針を語る3メガグループトップ(MUFGの亀澤社長、5月15日)
2023年5月26日号6面 地銀、スタートアップ支援で地域に活力、多様な人の連携がカギ
地方銀行は、取引先経営者の高齢化などを背景に企業数が減少傾向にあるなか、スタートアップ(SU)を支援することで地域に活力をもたらしたい考えだ。資金面にとどまらずSUの掘り起こしから、大学との連携や販路拡大まで幅広くサポートする。地域に雇用を創出し、若者が地元にとどまる環境を整備する。ただ、SUの担い手は海外に比べて少ないのが現状だ。専門家は、異なる背景を持つ人の交流や連携が増加のカギになると指摘する。
東京商工リサーチによると、2022年の「休廃業・解散」企業数は、…
2023年5月26日号8面 東信協、よろず拠点の派遣拡充、長期トレーニー受け入れ
東京都信用金庫協会(澁谷哲一会長=東京東信用金庫会長)は、実施機関を務める東京都よろず支援拠点が導入する「事業者支援トレーニー制度」を拡充している。4月に初めて長期間の受け入れを開始。9月末まで芝信用金庫職員を受け入れる。支援ノウハウの共有や人脈構築サポートを強化する狙い。
2017年に始めた同制度は、都内信金を中心とした金融機関などから職員を受け入れるもの。派遣中は毎日3、4件、…
【写真】川瀬課長(中央)は一日3、4件、健康経営に詳しい弥冨尚志氏(左)らコーディネーターによる経営相談に同席する(5月1日、東京都よろず支援拠点)
2023年5月26日号10面 ネット証券、新NISA見据え囲い込み、SBIは「オリーブ」で攻勢
2024年1月の新NISA(少額投資非課税制度)開始を見据え、ネット証券各社は顧客の囲い込みに力を注ぐ。各社は新規口座獲得に向けたキャンペーンに加え、サービス・機能面の拡充も進める。
グループ累計で1千万口座を達成したSBI証券は、三井住友フィナンシャルグループと連携した総合金融サービス「Olive(オリーブ)」を通じた若年層の獲得に手応えを感じている。連携は3月に開始し、…
【写真】SBI証券は新たにオリーブ経由で若年・投資初心者層にリーチ(写真は三井住友銀行のオリーブ広告、東京・日本橋)
2023年5月26日号16面 【時の話題】首都圏信金・信組、電気代高騰で“あの手この手”
電力会社変更や自然エネ導入など
電気代高騰が首都圏の信用金庫と信用組合に重くのしかかっている。ロシアがウクライナへ侵攻した2022年以降、信金と信組の電気代は約3、4割増加。さらに4月には東京電力が法人の電気代を12~14%値上げした。値上がりした電気料金を少しでも抑えるため、電力会社の変更や、太陽光など自然エネルギーの導入を推進。また、電気を大量消費するデータセンターでは高効率変圧器を設置し、電力量のロスを低減する。各機関の取り組みを見た。
■契約内容見直しも
電気代は、石炭や天然ガスといった化石燃料の高騰や円安などで大きく値上がりした。東京都内中堅信金本部の電気料金は…
【写真】城南信用金庫は14拠点に太陽光発電設備を設置(4月19日、東京都品川区の城南信用金庫営業部本店)
2023年5月26日号17面 しんきん地域ネット、「道の駅」活性化支援を加速
佐賀県伊万里市で企画始動、自治体や地元信金と連携
信金中央金庫子会社のしんきん地域創生ネットワーク(しんきん地域ネット)は2023年度以降、「道の駅」の活性化支援を加速させる。5月上旬、佐賀県の伊万里市農業協同組合が運営する「伊万里ふるさと村」の施設リニューアルに向け、取り組みを本格始動した。自治体や地元信用金庫と連携し、10月末までの事業計画策定を目指す。
現在、伊万里市農協や自治体が有する道の駅の業績データや地元住民・観光客向けのアンケート結果の分析を進めている。今後は、オンライン会議や…
【写真】「伊万里ふるさと村」内にある地元名産品の直売所
2023年5月26日号20面 静岡銀行富士宮支店、チーム行動、若手がベテランとタッグ
制度融資や事業承継で成果
【静岡】静岡銀行富士宮支店(田中正男支店長=行員21人、渉外担当者11人。パート12人)は、若手渉外担当者と副支店長・上席がペアとなるチームでの活動が奏功。法人融資増強で成果をあげる。サステナブルファイナンス関連の制度融資や事業承継におけるコンサルティング業務などで、好調な業績を維持する。
法人への訪問活動のカギは副支店長やマネージャー職ごとに若手の渉外担当者を2、3人配置し…
【写真】制度融資の新規獲得状況を把握する田中正男支店長(中央、4月11日)
社説 企業支援のマインド忘れるな
銀行の2023年3月期決算は大手行・地域銀行ともに好調さが目立った。海外債券の含み損処理が足を引っ張ったが、保有株式の益出しや貸出金利息、手数料収入の伸びでカバーした。ただ、低位で推移する与信関係費用が急増すれば業績は揺らぎかねず、警戒を解くのは早すぎる。
当期純利益は大手行5グループ(G)が22年3月期比7%増え、海外収益比率が高い3大銀Gに限れば9年ぶりの高水準だった。三菱UFJフィナンシャル・グループの実質業務純益は30%増え、16年2月のマイナス金利政策導入前の水準に戻った。地域銀行も5月15日までに発表された83行Gの純利益が13%増え、回復傾向が続いた。
一方、良好な決算は低位安定する与信関係費用が支えることを忘れてはならない。国内ではコロナ禍で借り入れた融資の返済が23年度に本格化する。実質無利子・無担保融資は公的保証で保全されるとはいえ、取引先が行き詰まれば関連企業に波及する恐れもある。
帝国データバンクによれば倒産件数が22年を上回るペースで増えており、4月は2カ月連続で600件を超えた。売り上げ不振などによる不況型が9カ月ぶりに8割に達した。人手不足に起因する倒産も13年1月の集計開始以来、最多だ。
海外ではメガバンクの業績を支える米国に不安が漂う。急速な利上げで地方銀行の信用不安が続いている。貸出態度が慎重になりつつあり、信用収縮を通じた景気悪化懸念は残る。メガバンク首脳は「長期間にわたり緩やかに落ち込むのが最も怖い」という。
コロナ禍は終息へ薄日が差し始めた。未知の感染症危機は金融機関に正面から取引先と向き合い、一緒に変革へ進む機運を生み出した。平時に戻っても健全な危機意識を忘れず、この姿勢を貫いてほしい。デジタル化や脱炭素、人材不足といった取引先の課題は残っている。2023.5.26
ニッキン抄 2023.5.26
「俺は本当にばかだった。彼がデビューした頃、ただの派手なゲイだと決めつけた」。リベラーチェのピアノ演奏をテレビで聴きながら90歳の男性がつぶやく。「なんで彼の性的嗜好(しこう)にこだわってたんだろうな。彼の好きにすりゃいいんだ」▼やや偏屈な老人の日常を描いた米国映画「ラッキー」の一幕だ。リベラーチェは1950年代~80年代に活躍した天才ピアニストで、同性愛者であることを生涯ひた隠しに生きた▼LGBTQなど性的少数者に関する理解が浸透し始めた現代でも、差別的な言動に苦しむ人は後を絶たない。性的少数者への調査では8割超に職場でのハラスメント経験があった(虹色ダイバーシティ調べ)▼与党と野党は5月18日、性的少数者への理解を増進するLGBT法案をそれぞれ提出した。日本の法整備状況はOECD加盟国でワースト2位。与党案と野党案に差異はあるが、政争の具にすることは許されない。今国会での早期成立を待つ。 2023.5.26